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最高裁判所第二小法廷 平成5年(オ)1788号 判決

上告人

亡長﨑周一郎訴訟承継人兼本人

長﨑久子

亡長﨑周一郎訴訟承継人

長﨑八重喜

東岡幸子

長﨑義章

右四名訴訟代理人弁護士

戸田隆俊

被上告人

高知県信用保証協会

右代表者理事

川田正夫

右訴訟代理人弁護士

田村裕

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人戸田隆俊の上告理由について

一  本件請求は、上告人らが被上告人に対し、上告人らの所有する不動産に設定された被上告人の安芸輝郎に対する求償債権等を被担保債権とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定登記の抹消を求めるものである。原審の確定したところによれば、被上告人から安芸に対して本件根抵当権の被担保債務の履行を求める訴訟が提起され、昭和五七年四月一八日に被上告人勝訴の判決が確定しているところ、被上告人は、平成四年四月三日に本件根抵当権の実行としての不動産競売を申し立て、これに基づいて、同月七日に競売開始決定がされ、同年六月一三日に債務者である安芸に右競売開始決定正本が送達されたものである。

上告人らは右判決確定の時から一〇年を経過した平成四年四月一八日に本件根抵当権の被担保債権は時効によって消滅した旨を主張し、被上告人は不動産競売の申立てをした同月三日に右債権についての時効中断の効力が生じた旨を主張している。したがって、本件においては、物上保証人に対する不動産競売の申立てによって時効中断の効力が生ずる時期が、債権者が競売を申し立てた時であると解するか、競売開始決定正本が債務者に送達された時であると解するかによって、消滅時効の成否の判断が左右されることになる。

二  原審は、物上保証人に対する不動産競売の申立てによる被担保債権の消滅時効の中断の効力は、債権者が執行裁判所に競売の申立てをした時に生ずると解するのが相当であるところ、本件においては、時効期間の満了前に本件根抵当権の実行としての不動産競売の申立てがされているから、これにより本件根抵当権の被担保債権の消滅時効は中断されたとして、上告人らの本件請求を棄却すべきものとした。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

債権者から物上保証人に対する不動産競売の申立てがされ、執行裁判所のした競売開始決定による差押えの効力が生じた後、同決定正本が債務者に送達された場合には、民法一五五条により、債務者に対し、当該担保権の実行に係る被担保債権についての消滅時効の中断の効力が生ずるが(最高裁昭和四七年(オ)第七二三号同五〇年一一月二一日第二小法廷判決・民集二九巻一〇号一五三七頁、最高裁平成七年(オ)第三七四号同年九月五日第三小法廷判決・民集四九巻八号二七八四頁参照)、右の時効中断の効力は、競売開始決定正本が債務者に送達された時に生ずると解するのが相当である。けだし、民法一五五条は、時効中断の効果が当該時効中断行為の当事者及びその承継人以外で時効の利益を受ける者に及ぶべき場合に、その者に対する通知を要することとし、もって債権者と債務者との間の利益の調和を図った趣旨の規定であると解されるところ(前掲昭和五〇年一一月二一日第二小法廷判決参照)、競売開始決定正本が時効期間満了後に債務者に送達された場合に、債権者が競売の申立てをした時にさかのぼって時効中断の効力が生ずるとすれば、当該競売手続の開始を了知しない債務者が不測の不利益を被るおそれがあり、民法一五五条が時効の利益を受ける者に対する通知を要求した趣旨に反することになるからである。

したがって、右の場合に、債権者が競売の申立てをした時をもって消滅時効の中断の効力が生ずるとの見解に立って、上告人らの本件請求を棄却した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件においては、被上告人は、債務者である安芸が昭和五七年一二月二二日に本件根抵当権の被担保債務を承認したとの主張をしているので、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すことにする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官根岸重治 裁判官大西勝也 裁判官河合伸一 裁判官福田博)

上告人代理人戸田隆俊の上告理由

原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈の誤りがあり、破棄を免れない。

一 原判決は「不動産執行による金銭債権についての消滅時効の中断の効力は、債権者が執行裁判所に当該金銭債権について不動産執行の申立てをしたときに生ずるものと解するのが相当である。」と判示し、執行が誰の所有物件に対してなされたかを区別していない。

二 しかしながら、右判示は最高裁判所昭和五〇年一一月二一日第二小法廷判決に反しており誤りである。

すなわち右最高裁判決が「債権者より物上保証人に対し、その被担保債権の実行として任意競売の申立てがされ、競売裁判所がその競売開始決定をしたうえ、競売手続の利害関係人である債務者に対する告知方法として同決定正本を当該債務者に対し送達した場合には、債務者は、民法第一五五条により、当該被担保債権の消滅時効の中断の効果を受けると解するのが相当である。」と判示しているように、物上保証人に対する執行申立てはそれのみでは時効中断の効果は生じず、民法第一五五条が適用されて初めて時効中断の効果を生じるのである。

三 右最高裁判決はいつ時効中断の効果が発生するかについては明示していないが、民法第一五五条の「之ヲ其者ニ通知シタル後ニ非サレバ時効中断ノ効力ヲ生ゼズ」との規定からすれば、主債務者に対して競売開始決定が送達された時に初めて時効中断の効果が発生すると解すべきである。(同旨津地方裁判所四日市支部昭和三七年七月二七日判決下民一三巻七号一五七四)

四 そうすると本件については消滅時効が完成しているとの結論になるはずであり、原判決の法令の解釈の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

五 よって原判決は速やかに破棄されるべきである。

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